シニアに広がる
暮らしのパーソナル化とシンプル化
~60才以上世代の住意識 時系列変化~
株式会社住環境研究所/2026年07月15日
健康寿命の延伸や65才以上の就業率の上昇を背景に、高齢期の暮らし方は大きく変化しています。2026年に策定された「住生活基本計画(全国計画)」では、人生100年時代を見据え、高齢者がライフスタイルに応じて住み替えやリフォーム、多様な住まい方を選択できる環境整備の重要性が示されています。こうした中、高齢期の住まいに対するニーズや価値観を把握することは、今後の住まいづくりや住生活サービスを考える上でますます重要になっています。
住環境研究所は、こうした社会変化に先駆け、1990年代より30年以上にわたり、高齢期の暮らしや健康、住環境の変化について継続的に調査・研究を行ってまいりました。その一環として、2000年、2018年に「中高齢層」を対象とした意識調査の結果を発信しています。
この度、第三弾として2026年調査を実施し時系列変化をまとめました。その結果、“新たな住まい方”として「多拠点居住」「住み開き(自宅の一部を開放して近隣の交流の場とする)」への関心が大きく高まっていること、又、”暮らし価値観“では「家庭内おひとりさま志向」と「持たない暮らし志向」が一層増加していることがわかりました。更に”暮らし価値観“と”新たな住まい方“への関心“の関係を分析しています。
■多拠点居住、住み開きなど新たな住まい方への関心増大
近年、住宅ストックの活用や地域との新たな関わり方への関心が高まる中、国土交通省では地方移住や二地域居住(多拠点居住)の促進に取り組んでおり、国土交通省の調査では二地域居住への関心層は約3割となっています※1。また、空き家の増加(1978年268万戸→2023年900万戸)※2、1世帯当たり人員の減少(1970年3.45人→2025年2.15人)※3を背景に、多拠点居住や住み開きといった新たな住まい方が注目されています。本調査ではこれら“新たな住まい方”に対するシニア層の関心について2018年から調査しています。
グラフ①多拠点居住「関心あり」は2018年12%から2026年34%に増加、グラフ②住み開き「関心あり」は4%から26%に増加しています。いずれも多数派は「関心なし」ですが、新たな住まい方への関心は拡大しているといえます。
■「自分時間」と「持たない暮らし」志向が拡大
夫婦やモノに対する価値観は2000年より調査しています。この26年間で価値観に大きな変化がみられました。
グラフ③夫婦に関する価値観は「A.夫婦といえど一人時間がほしい」寄りの意見が2000年41%から2026年60%に増加しており、 “個”を尊重する “家庭内おひとりさま志向”が高まっています。グラフ④モノに関する価値観は「A.すっきりシンプルに生活したい、不必要なものはどんどん処分」が2000年24%から2026年50%に倍増しており、“断捨離志向”が高まっています。
■「自分時間」重視派は「多拠点居住」に関心が高いなど、価値観が住まい方に影響
「自分時間」や「持たない暮らし」に価値観が変化した結果、住まい方に影響はあるのでしょうか?
“価値観”別に“新たな住まい方”への関心をみますと、グラフ⑤ “夫婦といえど一人時間を重視する”人で「多拠点居住」に関心が高く、グラフ⑥ “すっきりシンプルに生活したい”人で「住み開き」への関心が高くなっています。
一人時間を確保し多拠点居住を楽しむ(グラフ⑤)、すっきり断捨離できたら住み開きにも挑戦したい など(グラフ⑥)、価値観が住まい方に影響している様子が伺えます。
研究員のコメント
今回の結果で興味深いのは、「価値観」と「新たな住まい方への関心」の関係です。「夫婦といえど一人時間がほしい」と考える人ほど多拠点居住への関心が高く、「すっきりシンプルに生活したい」と考える人ほど住み開きへの関心が高い傾向がみられました。
多拠点居住は、居場所を複数持つことで、自分の時間や活動の幅を広げられる住まい方です。そのため、自分らしい時間を重視する価値観との親和性が高いと考えられます。一方、住み開きは、モノを減らして生まれた空間や余白を地域交流や新たな活動に活用する住まい方ともいえます。「持たない暮らし」志向との関係は、こうした点にあるのかもしれません。
今後は高齢者の住まいについても、住宅性能や広さだけでなく、どのような時間を過ごしたいか、どのような人との関係を築きたいかという価値観の視点が重要になっていくと考えられます。
※1 国土交通省「二地域居住等の最新動向について」(2023年11月)
※2 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」(2024年)
※3 総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計 結果の要約」(2026年)