約60万件の住宅データから工業化住宅の長寿命化実態解明を目指し
東京大学・東京工芸大学との連携で研究を加速
~サーキュラーエコノミー時代を見据えて~
株式会社住環境研究所/2026年08月19日
積水化学工業株式会社 住宅カンパニー(プレジデント:吉田匡秀)の調査研究機関である株式会社住環境研究所(所長:太田真人、千代田区内神田1-14-10)は、東京大学大学院工学系研究科の権藤智之准教授および東京工芸大学工学部の森田芳朗教授の協力のもと、工業化住宅*1の長寿命化の実態と、その実現を支える要因の解明に取り組みます。
サーキュラーエコノミーの実現と2050年カーボンニュートラルの達成に向け、住宅の長寿命化や既存住宅の循環利用が重要な社会課題となっています。住生活基本計画(2026~2035年度)でも、既存住宅の価値向上と活用の促進が重要な施策として位置付けられています。一方、工業化住宅は、工場生産による均一な品質と高い施工精度を強みに、累計500万戸超が供給されるなど、日本の住宅品質向上に貢献してきました。しかし、その長寿命化の実態や要因は明らかになっていません。
そこで当社では、2025年度から工業化住宅の長期的価値に着目し、その長寿命化の実態解明に向けた研究を進めています。これまでに実施したアンケート調査では、築年数が経過した戸建住宅において、工業化住宅(調査では鉄骨造のみ)が他の住宅に比べて建物の劣化発生が少ない傾向を確認しました。その要因や長寿命化との関係は、なお十分に解明されておらず、さらなる検証が必要です。
今回、東京大学・東京工芸大学と連携し、その実態と要因の検証を進めます。約60万件の住宅データ*2分析に加え、アンケート・訪問調査を実施し、住宅寿命、維持管理の状況、居住履歴、住みこなしや住宅価値継承の実態などを多角的に分析することで、工業化住宅の長寿命化の実態と要因の解明を目指します。得られた成果を通じて、住宅ストックの価値向上と長期活用に向けた知見を蓄積し、良質な住宅を長く使う社会の実現に貢献します。
『工業化住宅の長寿命化実態』に関する研究の概要
1.築年数が経過した住宅で 工業化住宅(鉄骨造)の劣化発生が少ない傾向を確認
2.東大・東京工芸大と連携し、約60万件の住宅データから長寿命化の実態と要因解明へ
■研究の背景について
サーキュラーエコノミーの実現に向け、住宅の長寿命化や住宅ストックの循環利用の重要性が高まっています。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、2028年度には建築物のホールライフカーボン(計画から解体までのライフサイクル全体のCO2排出量)の算定・評価に関する制度の導入が予定されており、良質な住宅を長期間活用することの意義が一層高まっています。2026年3月に閣議決定された住生活基本計画(2026~2035年度)でも、住宅が多様な世帯や世代に住み継がれ、資産として活用される社会の実現に向け、住宅ストックの活用と既存住宅の価値向上が重要な政策課題に位置付けられました。
一方、工業化住宅は、戦後の住宅不足を背景に、住宅の主要構成部材を工場で生産し現場で組み立てる住宅供給システムとして発展し、工場生産による品質の均一化や高い施工精度で、日本の住宅品質の向上を先導してきました。しかし、その長寿命化の実態や、それを支える要因は十分に明らかになっていません。
本研究では、工業化住宅を対象に、長寿命化の実態とその実現を支える要因の解明を目指します。得られた知見を蓄積し、住宅ストックの価値向上と長期活用を促進することで、良質な住宅を長く使う社会の実現に貢献してまいります。
■『工業化住宅の長寿命化実態』に関する研究について
1.築年数が経過した住宅で、工業化住宅(鉄骨造)の劣化発生が少ない傾向を確認
本研究の一環として、2025年度に当社が実施したアンケート調査(戸建住宅を現在所有している方または過去に所有していた方が対象)において、建物の劣化発生状況を分析したところ、工業化住宅(鉄骨造)*3はそれ以外の住宅*3と比べて、建物の劣化発生率が低い傾向がみられました。
グラフは、建築時期・建物種類別の劣化発生率と、それ以外の住宅に対する工業化住宅(鉄骨造)の劣化発生率の差を示しています。差に着目すると、1970年代に建築された住宅では、「外壁のきず」-8.5ポイント、「屋根・外壁の雨漏り」-8.0ポイント、「基礎・外壁のひび割れ」-7.7ポイント、「床の傾斜」-6.9ポイント、「内装・内壁の結露」-6.2ポイントと、工業化住宅(鉄骨造)の劣化発生率が低い結果となりました。また、2000年代に建築された住宅でも、「外壁のきず」-3.2ポイント、「外壁・内装のはがれ」-3.1ポイント、「基礎・外壁のひび割れ」-3.0ポイント、「床鳴り」-2.1ポイントと低くなっています。このように、工業化住宅(鉄骨造)は、いずれの建築年代においても劣化発生率が相対的に低く、特に1970年代に建築された住宅ではその差が大きい傾向が確認されました。
なお、本データは住宅所有者の認識に基づくものであり、住宅の劣化状況には住宅規模や立地条件、維持管理の状況、居住者属性などさまざまな要因が影響する可能性があります。そのため、本調査結果のみから要因を特定することはできません。
2.東大・東京工芸大と連携し、約60万件の住宅データから長寿命化の実態と要因解明へ
工業化住宅の長寿命化の実態をより多角的かつ客観的に解明・検証するため、当社は東京大学大学院工学系研究科の権藤智之准教授および東京工芸大学工学部の森田芳朗教授に研究を委託し、産学連携による研究体制を強化します。権藤准教授は、建築生産および建築構法を専門とし、国内外の住宅工業化に関する豊富な研究実績があります。また、森田教授は、住宅ストック活用、高経年住宅の実態把握に関する研究を長年進めており、工業化住宅に関する幅広い知見を有しています。当社は、セキスイハイムグループが供給してきた約60万件の住宅データを保有しており、生活者に関する調査・研究を長年にわたり蓄積してきました。
両大学の学術的知見と、当社保有の住宅データや研究ノウハウを融合し、工業化住宅の長寿命の実態と要因の解明・検証に取り組みます。あわせて、実際の住宅を対象としたアンケート・訪問調査を実施し、住宅メンテナンスの実施状況、居住者による住みこなしや価値継承の実態などを把握します。これにより、工業化住宅が長期間利用される実態を明らかにするとともに、長寿命化を支える住宅性能、維持管理、居住者行動などの要因を多角的に解明します。
さらに、得られた知見を基に、居住以外の用途への活用や、住宅の構造体や部材の再利用を含めた建物の長寿命化へ研究を展開していきます。工業化住宅の長寿命化に関する知見を蓄積することで、循環型社会の実現と良質な住宅を長く活用する住社会の形成への貢献を目指します。
■『工業化住宅の長寿命化実態』に関する研究の社会的意義
*1:工業化住宅
本研究では、工業化住宅をプレハブ住宅と同様の意味で用いています。なお、2025年度のアンケート調査では鉄骨造の工業化住宅に着目していますが、2026年度以降の研究では、構造種別を問わず工業化住宅を対象とします
*2:約60万件の住宅データ
分析する約60万件の住宅データは、セキスイハイムグループが1971年から提供してきた住宅に関する情報のうち、建築時期・エリアなど建物属性や診断受診等の履歴などです。なお、個人を特定できる情報は含みません
*3:アンケート調査における工業化住宅(鉄骨造)とそれ以外の住宅
工業化住宅(鉄骨造)=建築会社は、鉄骨造の工業化住宅の販売実績があり現在も戸建住宅事業を継続している主要なプレハブ住宅メーカー7社で、建物構造は鉄骨造の戸建住宅
それ以外の住宅=上記以外の戸建住宅で、「建築会社はわからない」もしくは「建物構造はわからない」を除く
*4:建物の長寿命化に関わる 住まいのサーキュラーエコノミー
出典:経済産業省『成長志向型の資源自律経済戦略』を基に当社加工
住宅の再製造=既存住宅を分解し、工場で部材の再利用や性能向上を図ったうえで、再組立すること。住宅のリマニュファクチャリング
*5:セキスイハイムM1
積水化学工業の住宅ブランド「セキスイハイム」の最初の商品として1971年に発売された、ユニット工法による工業化住宅
大手プレハブ住宅メーカーの多くが1960、70年代に供給を開始し、現在改修か建て替えかの決断を迫られている住宅も相当数にのぼると予想されます。こうした中で数十万戸におよぶ住宅ストックの広さや立地、改修履歴といったデータから、住宅のどのような属性が長寿命化に影響を与えているかを分析する研究は、大手プレハブ住宅メーカーの住宅に限らず、どのような住宅が長寿命化するかを考える基盤となるデータを提供できる可能性があります。また単一の企業が数十年の間にわたって供給した住宅のその後を数十万戸という規模で量的に研究した研究自体、世界的に見ても新規性の高い研究といえるでしょう。
東京大学大学院工学系研究科
准教授 権藤智之
建築界でもファンの多いセキスイハイムM1*5。その住みこなしの実態は、開発者である建築家・大野勝彦氏(1944-2012)自身のアトリエによる精力的な調査が、2000年代初頭に行われました。大野氏は、鉄骨の柱梁の軸組フレームにさまざまな生活部品が取り付き、暮らしや時代とともに循環していく姿を構想しました。全国のM1を訪ね歩き、狙い通り、あるいはそれを超える使い方を目にしたときの大野氏のうれしそうな顔が思い出されます。それから四半世紀。今回の調査では、そのユニークな設計思想がお住まいの方とこれまでどう共有され、将来へどう受け継がれていくかを探ります。
東京工芸大学工学部
教授 森田芳朗